食品・飲料
内需の成熟と海外展開 —— 「たばこ」が最大の稼ぎ頭という日本の特殊事情
食品・飲料は人口減で国内市場が成熟し、各社は海外展開と高付加価値化で成長を探る。 日本で売上規模が突出するのは JT(日本たばこ産業)で、たばこ事業が売上の大半を占める特殊な存在。 味の素は調味料からアミノ酸技術を活かした電子材料(半導体向け ABF)まで広げ、キリンは酒類からヘルスサイエンスへ、 キッコーマンは醤油の海外展開で稼ぐなど、各社の「逃げ道」が分かれている。下表は各社の全社連結。
各社の全社連結(横断比較)
セグメント別(主戦場/非主戦場)
各社の事業別セグメント売上・利益。この業界の主戦場に当たるセグメントには主戦場を付けています。主戦場が見当たらない会社は、その事業が独立セグメントとして開示されていない(=全社の一部に埋もれている)ことを意味します。
日本たばこ産業株式会社主戦場側
| セグメント(事業別) | 売上高 | 営業利益 | 設備投資 | 減価償却 | セグメント間取引 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| たばこ主戦場 | 3.31兆円 | 9522億円 | 1432億円 | 1797億円 | 100万円 | 95.4% |
| 加工食品 | 1595億円 | 86億円 | 74億円 | 74億円 | 3500万円 | 4.6% |
たばこが売上の大半(3兆3,054億円)を占める。加工食品は小さい。元国営企業で政府が株式を保有。
キリンホールディングス株式会社主戦場側
| セグメント(事業別) | 売上高 | 営業利益 | 資産 | 設備投資 | 減価償却 | セグメント間取引 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 酒類主戦場 | 1.08兆円 | 1354億円 | 1.43兆円 | 486億円 | 325億円 | 21億円 | 44.8% |
| 清涼飲料 | 5782億円 | 677億円 | 3647億円 | 182億円 | 137億円 | 33億円 | 24.1% |
| 医薬品 | 4965億円 | 1023億円 | 1.06兆円 | 455億円 | 261億円 | 3億円 | 20.7% |
| ヘルスサイエンス | 2514億円 | 111億円 | 7641億円 | 109億円 | 152億円 | 47億円 | 10.5% |
酒類(キリンビール)が主力。清涼飲料に加え、協和キリン(医薬)とヘルスサイエンスを持つ。
味の素株式会社主戦場側
| セグメント(事業別) | 売上高 | 営業利益 | 資産 | 設備投資 | 減価償却 | セグメント間取引 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 調味料・食品主戦場 | 9369億円 | 1430億円 | 7252億円 | 585億円 | 421億円 | 91億円 | 59.7% |
| ヘルスケア他 | 3415億円 | 662億円 | 4807億円 | 278億円 | 242億円 | 61億円 | 21.8% |
| 冷凍食品 | 2903億円 | 85億円 | 2171億円 | 107億円 | 145億円 | 7億円 | 18.5% |
調味料(味の素)が主力。アミノ酸技術から半導体向け絶縁材(ABF)まで広げた。
キッコーマン株式会社主戦場側
| セグメント(事業別) | 売上高 | 営業利益 | 設備投資 | 減価償却 | セグメント間取引 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 海外食品卸主戦場 | 4328億円 | 307億円 | 161億円 | 79億円 | 1億円 | 58.1% |
| 国内食品(製造・販売) | 1557億円 | 99億円 | 102億円 | 92億円 | 44億円 | 20.9% |
| 海外食品(製造・販売) | 1495億円 | 409億円 | 407億円 | 62億円 | 240億円 | 20.1% |
| 国内その他 | 75億円 | 16億円 | 14億円 | 14億円 | 142億円 | 1.0% |
醤油の会社だが、売上最大は「海外食品卸」=北米での日本食材卸売。海外比率が高い。
世界の状況
日本の上場企業だけでは業界の全体像は見えない。世界の主要プレイヤーを並べると、 この業界で日本勢がどの位置にいるのかが分かる。棒の長さは規模(売上・総資産・台数など)の目安。
① 世界の食品・飲料大手 売上(直近通期)
世界の食品・飲料は欧米の巨大企業が並ぶ。日本勢は円建てで 1〜2 兆円規模で、桁がひとつ違う。
| # | プレイヤー | 売上(原文値) | 定義・期間 |
|---|---|---|---|
| 1 | PepsiCo(米) | $93,925M | 暦年2025・Net Revenue |
| 2 | Nestlé(スイス) | CHF 89,490M | 暦年2025・Sales(−2.0%) |
| 3 | AB InBev(ベルギー) | $59,320M | 暦年2025・物品税控除後 |
| 4 | Unilever(英・全社) | €50,503M | 暦年2025・継続事業(Foods 部門は €12,929M) |
| 5 | Coca-Cola(米) | $47,941M | 暦年2025・Net Operating Revenues |
| 6 | Danone(仏) | €27,283M | 暦年2025・Sales |
| 7 | キリンホールディングス日本 | ¥2兆1,547億 | 暦年2025・酒税抜き(酒税込みは 2兆4,334億円) |
| 8 | 味の素日本 | ¥1兆5,837億 | 2026年3月期 |
② 世界のたばこ大手 売上(物品税控除後で統一)—— JT の位置
日本の食品・飲料で売上が突出するのは JT。たばこは物品税の扱いで数値が倍近く変わるため、 ここでは「物品税を控除した後」で定義を統一している。
| # | プレイヤー | 売上(物品税控除後・原文値) | 定義・期間 |
|---|---|---|---|
| 1 | Philip Morris International(米) | $40,648M | 暦年2025・Net Revenues(物品税控除後) |
| 2 | 日本たばこ産業(JT)日本 | ¥3兆4,677億 | 暦年2025・たばこ税控除後/継続事業 |
| 3 | British American Tobacco(英) | £25,610M | 暦年2025・duty/excise 控除後 |
| 4 | Altria(米) | $20,139M | 暦年2025・Revenues net of excise taxes |
| 5 | Imperial Brands(英) | £8,316M | 2025年9月期・たばこ+NGP net revenue |
業界の変遷(年表)
いまの勢力図がどう出来上がったのか。主要な出来事を時系列で並べる。各行の「出典」は発表元の一次資料へのリンク。
- 1985-04
日本専売公社の一切の権利義務を承継して日本たばこ産業(JT)が設立され、たばこの国営専売事業が民営化された(日本たばこ産業株式会社法に基づく)。日本のたばこ市場が海外メーカーに開放された。
出典: JT 公式「JT グループの歴史」/有価証券報告書 - 1999
JT が米 RJR ナビスコから米国外のたばこ事業を取得し、海外たばこ事業へ本格進出した。
出典: JT 公式「JT グループの歴史」 - 1999
味の素が世界で初めてビルドアップ基板用層間絶縁材料「ABF(味の素ビルドアップフィルム)」を開発。以後 20 年以上、半導体パッケージのデファクトスタンダードとして大手半導体メーカーに採用され続けている。
出典: 味の素 事業説明会「ICT 領域 〜ABF を軸にした成長戦略〜」(2023-06-13) - 2007-04
JT が英ギャラハーの発行済株式を取得し完全子会社化。海外たばこ事業が一段と拡大した。
出典: JT 有価証券報告書(第23期)/公式「JT グループの歴史」 - 2007
キリンが協和発酵工業に資本参加。翌 2008 年に協和発酵工業とキリンファーマが合併して協和発酵キリン(現・協和キリン)が発足し、医薬が柱に加わった。
出典: キリンホールディングス 公式「沿革」 - 2009
明治製菓と明治乳業が共同持株会社「明治ホールディングス」を設立して経営統合(2011 年の事業会社再編で薬品事業は Meiji Seika ファルマへ)。
出典: Meiji Seika ファルマ 公式「沿革」 - 2010-02
キリンとサントリーの経営統合交渉が終了し破談。実現していれば世界有数の食品・飲料グループが誕生していた。
出典: キリンホールディングス ニュースリリース(2010-02-08) - 2026-03期
キッコーマンの連結売上収益 7,455 億円のうち、海外食料品卸売が 4,329 億円・海外食料品製造販売が 1,735 億円。醤油メーカーでありながら、収益の柱は北米での日本食材の卸売になっている。
出典: キッコーマン 2026年3月期 決算短信
よくある質問
食品・飲料業界の主な上場企業はどこですか?
食品・飲料業界の主な上場企業には、日本たばこ産業株式会社、キリンホールディングス株式会社、味の素株式会社、明治ホールディングス株式会社、キッコーマン株式会社があります(日本国内の上場企業ベース)。
食品・飲料業界の世界の主要プレイヤーはどこですか?
① 世界の食品・飲料大手 売上(直近通期)によると、PepsiCo(米)($93,925M)、Nestlé(スイス)(CHF 89,490M)、AB InBev(ベルギー)($59,320M)、Unilever(英・全社)(€50,503M)、Coca-Cola(米)($47,941M)が挙げられます。