精密・カメラ
スマホに市場を消された業界 —— 医療と半導体へ逃げ切った者が生き残った
かつて日本が世界を席巻したカメラは、スマートフォンにコンパクト市場を消され、業界は縮小した。 生き残りの鍵は「本業をどこへ逃がしたか」——オリンパスはカメラから撤退して内視鏡で世界首位、 富士フイルムは写真フィルムを捨ててヘルスケア・素材へ、HOYA は半導体マスク基板とメガネレンズへ、 ニコン・キヤノンは半導体露光装置や事務機・医療へ軸足を移した。転換の成否が業績を分けた見本市。下表は各社の全社連結。
各社の全社連結(横断比較)
セグメント別(主戦場/非主戦場)
各社の事業別セグメント売上・利益。この業界の主戦場に当たるセグメントには主戦場を付けています。主戦場が見当たらない会社は、その事業が独立セグメントとして開示されていない(=全社の一部に埋もれている)ことを意味します。
オリンパス株式会社主戦場側
| セグメント(事業別) | 売上高 | 営業利益 | 資産 | 設備投資 | 減価償却 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 消化器内視鏡主戦場 | 6974億円 | 1364億円 | 7351億円 | 619億円 | 389億円 | 69.0% |
| 外科・治療 | 3131億円 | -150億円 | 5552億円 | 294億円 | 274億円 | 31.0% |
2020 年にカメラ事業を譲渡し、消化器内視鏡で世界首位の医療機器メーカーへ転換した。
株式会社ニコン主戦場側
| セグメント(事業別) | 売上高 | 営業利益 | 資産 | 設備投資 | 減価償却 | セグメント間取引 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 映像事業(カメラ)主戦場 | 2901億円 | 167億円 | 1743億円 | 109億円 | 98億円 | 15億円 | 43.1% |
| 精機事業(半導体露光等) | 1673億円 | -46億円 | 1702億円 | 97億円 | 38億円 | 2億円 | 24.8% |
| ヘルスケア | 1119億円 | 16億円 | 1441億円 | 92億円 | 71億円 | 2億円 | 16.6% |
| コンポーネント | 762億円 | 96億円 | 738億円 | 47億円 | 56億円 | 84億円 | 11.3% |
| デジタルマニュファクチャリング | 281億円 | -1063億円 | 630億円 | 48億円 | 67億円 | 6900万円 | 4.2% |
カメラ(映像事業)に加え、半導体露光装置(精機事業)を持つ数少ない企業。
世界の状況
日本の上場企業だけでは業界の全体像は見えない。世界の主要プレイヤーを並べると、 この業界で日本勢がどの位置にいるのかが分かる。棒の長さは規模(売上・総資産・台数など)の目安。
① デジタルカメラの総出荷台数の推移 —— スマホに市場を消された
デジタルカメラの出荷はピークの 2010 年から 2023 年まで一気に縮んだ。棒の長さが台数。 市場が約 13 分の1 になる、という壊滅的な縮小がひと目で分かる。
| # | プレイヤー | 総出荷台数 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 1 | 2010 年(ピーク) | 1億2,146万台 | 114.7% |
| 2 | 2012 年 | 9,814万台 | 85.0% |
| 3 | 2013 年 | 6,284万台 | 64.0% |
| 4 | 2016 年 | 2,419万台 | 68.3% |
| 5 | 2019 年 | 1,522万台 | 78.3% |
| 6 | 2020 年 | 889万台 | 58.4% |
| 7 | 2023 年(底) | 772万台 | 96.4% |
| 8 | 2025 年(直近)日本 | 944万台 | 111.2%・3年連続増 |
② 消えたのはコンパクト。生き残ったのはレンズ交換式(2025年)
市場を失ったのは「スマホで代替できる」コンパクトカメラだった。趣味・仕事で使うレンズ交換式は3分の1で踏みとどまり、 中身は一眼レフからミラーレスへ入れ替わった。
| # | プレイヤー | 2025年 出荷台数 | ピーク比 |
|---|---|---|---|
| 1 | レンズ交換式(合計)日本 | 700万台 | 2012年ピーク比 34.7% |
| 2 | うちミラーレス | 631万台 | 一眼レフの約9倍に |
| 3 | コンパクト(レンズ一体型) | 244万台 | 2008年ピーク比 2.2%(約45分の1) |
| 4 | うち一眼レフ | 69万台 | ミラーレスに逆転され縮小 |
業界の変遷(年表)
いまの勢力図がどう出来上がったのか。主要な出来事を時系列で並べる。各行の「出典」は発表元の一次資料へのリンク。
- 2000
富士フイルムの主力だった写真フィルムの需要がこの年をピークに下降に転じ、2010 年にはピーク時の 10 分の1 以下まで落ち込んだ(同社公式)。
出典: 富士フイルム HD 公式「90周年特設ページ(歴史)」 - 2004
富士フイルムが中期経営計画「VISION75」を発表し、写真感光材料で培った技術を洗い出す「技術の棚卸し」を実施。多角化の起点となった。
出典: 富士フイルム HD 公式「90周年特設ページ(歴史)」 - 2008-03
富士フイルムが富山化学工業を株式公開買付により連結子会社化し、医薬品事業に本格参入した。
出典: 富士フイルム HD 公式「富士フイルムグループの歴史」 - 2011-10
HOYA が PENTAX イメージング・システム事業(カメラ)をリコーへ譲渡。2008 年にペンタックスを合併して得たカメラを3年で手放し、内視鏡など医療を残した。
出典: HOYA 公式「沿革」 - 2011-12
オリンパスが第三者委員会の調査報告書を受領。1990 年代頃からの有価証券投資に係る「損失計上の先送り」で、飛ばした損失は 1,177 億円(維持費用等を含め計 1,348 億円)と認定された。
出典: オリンパス 適時開示(2011-12-06) - 2012-01
米イーストマン・コダックと米国子会社が連邦破産法チャプター11 の適用を申請した(海外子会社は対象外)。写真フィルムから転換できなかった側の帰結。
出典: Eastman Kodak Form 10-Q(SEC, 2012) - 2015-05
ニコンが英 Optos 社(眼科診断機器)を完全子会社化し、ヘルスケアへ足場を広げた。
出典: ニコン ニュースリリース(2015-05-23) - 2016-12
キヤノンが東芝メディカルシステムズの子会社化を決議。「ヘルスケア事業を次世代の柱の一つとして成長させたい」と表明した。
出典: キヤノン ニュースリリース(2016-12-19) - 2020-09
オリンパスが映像事業(カメラ)の譲渡契約を締結。「スマートフォンの進化に伴う市場の急激な縮小等、デジタルカメラの市場環境は極めて厳しい」「映像事業は 3 期連続で営業損失」と自ら明記し、医療・科学を柱にすると宣言した(2021 年 1 月に OM デジタルソリューションズへ)。
出典: オリンパス ニュースリリース(2020-09-30) - 2021-03
富士フイルムが日立製作所の画像診断関連事業(CT・MRI 等)を買収し、ヘルスケアをさらに厚くした。
出典: 富士フイルム HD 適時開示(2021-02-18)
よくある質問
精密・カメラ業界の主な上場企業はどこですか?
精密・カメラ業界の主な上場企業には、キヤノン株式会社、富士フイルムホールディングス株式会社、オリンパス株式会社、HOYA株式会社、株式会社ニコンがあります(日本国内の上場企業ベース)。
精密・カメラ業界の世界の主要プレイヤーはどこですか?
① デジタルカメラの総出荷台数の推移 —— スマホに市場を消されたによると、2010 年(ピーク)(1億2,146万台)、2012 年(9,814万台)、2013 年(6,284万台)、2016 年(2,419万台)、2019 年(1,522万台)が挙げられます。