電力・ガス
自由化と原発停止で崩れた「絶対安定」—— 燃料価格に振り回される装置産業
電力・ガスはかつて地域独占の「絶対安定」業種だったが、自由化で小売競争が始まり、 東日本大震災後の原発停止で燃料(LNG・石炭)の輸入価格に業績が直撃されるようになった。 2022 年の燃料価格高騰の影響は各社で分かれた —— 東京電力 HD は 2023 年 3 月期に純損失 1,236 億円を計上した一方、 原発の再稼働が進む関西電力は営業赤字でも最終黒字、都市ガス 2 社はむしろ増益だった。 規制料金の値上げを申請したのも大手全社ではなく 7 社(関西電力・中部電力は含まれない)で、「一斉に」ではない。 発電・小売と送配電が法的に分離されている点も、他業種と違う特徴。下表は各社の全社連結。
各社の全社連結(横断比較)
セグメント別(主戦場/非主戦場)
各社の事業別セグメント売上・利益。この業界の主戦場に当たるセグメントには主戦場を付けています。主戦場が見当たらない会社は、その事業が独立セグメントとして開示されていない(=全社の一部に埋もれている)ことを意味します。
東京電力ホールディングス株式会社主戦場側
| セグメント(事業別) | 売上高 | 資産 | 設備投資 | 減価償却 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 小売(エナジーパートナー)主戦場 | 4.83兆円 | 2.32兆円 | 392億円 | 170億円 | 76.4% |
| 送配電(パワーグリッド) | 1.23兆円 | 7.40兆円 | 4795億円 | 2508億円 | 19.4% |
| ホールディングス | 2127億円 | 9.76兆円 | 3559億円 | 1042億円 | 3.4% |
| 再生可能エネルギー | 515億円 | 7953億円 | 365億円 | 182億円 | 0.8% |
| 燃料・火力発電 | 37億円 | 1.64兆円 | — | 2000万円 | 0.1% |
最大手。小売(エナジーパートナー)と送配電(パワーグリッド)に分社。福島第一原発の賠償・廃炉を負う特殊な立場。
関西電力株式会社主戦場側
| セグメント(事業別) | 売上高 | 資産 | 設備投資 | 減価償却 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|
| エナジー主戦場 | 3.26兆円 | 8.71兆円 | 2748億円 | 1693億円 | 80.4% |
| 送配電 | 3862億円 | 2.73兆円 | 1770億円 | 1181億円 | 9.5% |
| 情報通信 | 2222億円 | 3581億円 | 748億円 | 412億円 | 5.5% |
| 生活・ビジネスソリューション | 1868億円 | 1.03兆円 | 610億円 | 135億円 | 4.6% |
原発の再稼働が最も進んでおり、燃料価格の影響を相対的に受けにくい。
中部電力株式会社主戦場側
| セグメント(事業別) | 売上高 | 資産 | 設備投資 | 減価償却 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 小売(ミライズ)主戦場 | 2.82兆円 | 8415億円 | 345億円 | 131億円 | 87.5% |
| 送配電(パワーグリッド) | 4035億円 | 2.53兆円 | 2264億円 | 1102億円 | 12.5% |
| JERA | — | 1.63兆円 | — | — | — |
小売(ミライズ)と送配電(パワーグリッド)に分社。JERA(東電との火力合弁)を持分に持つ。
東京瓦斯株式会社非主戦場
| セグメント(事業別) | 売上高 | 営業利益 | 資産 | 設備投資 | 減価償却 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| エネルギーソリューション主戦場 | 2.44兆円 | 1497億円 | 1.65兆円 | 662億円 | 669億円 | 86.2% |
| 海外事業 | 2411億円 | 707億円 | 1.17兆円 | 1398億円 | 904億円 | 8.5% |
| ネットワーク(導管) | 1031億円 | 41億円 | 6231億円 | 815億円 | 962億円 | 3.6% |
| 都市開発 | 460億円 | 98億円 | 3437億円 | 222億円 | 120億円 | 1.6% |
都市ガス最大手。海外事業(米シェールガス等)と都市開発も持つ。
大阪瓦斯株式会社非主戦場
| セグメント(事業別) | 売上高 | 営業利益 | 資産 | 設備投資 | 減価償却 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 国内エネルギー | 1.64兆円 | 687億円 | 1.71兆円 | 1246億円 | 787億円 | 100.0% |
関西地盤の都市ガス。海外エネルギー事業も展開する。
業界の変遷(年表)
いまの勢力図がどう出来上がったのか。主要な出来事を時系列で並べる。各行の「出典」は発表元の一次資料へのリンク。
- 2011-03
東日本大震災。福島第一原発は「地震発生から約 50 分後に大きな津波の直撃を受け」電源設備を喪失し、「原子炉への注水や状態監視などの安全上重要な機能を失いました」(東京電力の記述)。業界の前提が崩れた。
出典: 東京電力 HD「福島第一原子力発電所事故の経過と教訓」 - 2011-05
中部電力が浜岡原発 4 号機・5 号機を停止。震災後、各地で原発が止まり、火力の焚き増しで燃料輸入が急増した。
出典: 中部電力 プレスリリース(2011-05-12) - 2015-04
東京電力と中部電力が、燃料の上流・調達から発電までを担う合弁会社「JERA」を設立した(2019 年 4 月に既存火力発電事業等を統合)。
出典: 東京電力・中部電力 連名プレスリリース(2015-04-15) - 2016-01
関西電力が高浜発電所 3 号機の原子炉を起動。新規制基準下での原発再稼働が始まった。
出典: 関西電力 プレスリリース(2016-01-29) - 2016-04
電力の小売が全面自由化され、家庭や商店も含む全ての消費者が電力会社と料金メニューを選べるようになった。同月、東京電力はホールディングカンパニー制へ移行し、燃料・火力/送配電/小売の 3 社に分social した。
出典: 資源エネルギー庁「電力の小売全面自由化って何?」/東京電力 プレスリリース(2016-03-29) - 2017-04
都市ガスの小売も全面自由化され、電力とガスの相互参入が始まった。
出典: 東京ガス「ガス自由化とは?」 - 2020-04
一般送配電事業の法的分離(発送電分離)を実施。送配電会社は発電・小売を営むことを原則禁じられ、各社のセグメント名も「小売」と「送配電」に分かれた。
出典: 関西電力 プレスリリース(2020-03-13 認可) - 2021-06
関西電力が美浜発電所 3 号機の原子炉を起動。「新規制基準施行後、全国で初めて 40 年を超えて運転する原子力発電所であるとともに、2011 年 5 月以来、約 10 年ぶりの運転再開」(同社社長コメント)。
出典: 関西電力 プレスリリース/社長コメント(2021-06-23) - 2022-04
大阪ガスが導管部門を分社化し「大阪ガスネットワーク」を設立。ガスでも導管の中立化が進んだ。
出典: 大阪ガス プレスリリース(2022-03-17) - 2022年度
燃料価格高騰の影響は各社で分かれた。東京電力 HD は 2023 年 3 月期に純損失 1,236 億円(「燃料・卸電力市場価格の高騰などによる電気調達費用の増加」と説明)。一方 関西電力は営業赤字ながら最終黒字 177 億円、東京ガスは純利益 2,809 億円(+193.5%)と増益だった。
出典: 東京電力 HD「2022年度決算について」(2023-04-28)/各社 決算短信 - 2023-06
東京電力エナジーパートナーが規制料金を平均 15.90% 値上げ(経産大臣の認可)。ただし規制料金の改定を申請したのは 7 社で、関西電力・中部電力は含まれない。
出典: 東京電力 HD/東京電力 EP(2023-05-19) - 2026-04
東京電力が柏崎刈羽原発 6 号機の営業運転を開始(約 14 年ぶりの運転)。震災後止まっていた東電の原発が動き出した。
出典: 東京電力 HD「柏崎刈羽原子力発電所情報ポータル」
よくある質問
電力・ガス業界の主な上場企業はどこですか?
電力・ガス業界の主な上場企業には、東京電力ホールディングス株式会社、関西電力株式会社、中部電力株式会社があります(日本国内の上場企業ベース)。